Block Rockin’ Codes

back with another one of those block rockin' codes

Extensible Web の夜明けと開発者が得た可能性の話

Web based on Standards

Web は誰のものでもありません。

だれかプロダクトオーナーがいてその人が意思決定するとか、そういうのとは真逆の成り立ちをしています。

標準的な仕様を決めて、その仕様に則って Web の世界は成り立っている。

政府が作るサイトも、 Twitter も、学生が作ったブログも、全部同じルールで作られている。だから繋がる。


これって結構凄いことだと、自分は思っています。

Standarization

このルールの決め方にもルールがあって、ちょっと敷居は高いかもしれないけど、誰でも自由に参加して、自由に意見を述べることができる場があります。

標準化団体ってやつですね。

なんか一部の人たちが勝手にやっているように思えるかもしれないけど、それは選挙に行かない人の理論と同じです。

あなたが仕様について意見を持ってて、それが妥当であるならば、その発言は仕様を根本から変えることもできます。

その点で、選挙より結果との距離が近いかもしれないですね。

自分が標準化に参加していなくても、そのプロセスで行われた議論はオープンなので、追うことができます。


正直わかりにくい所もあるし、賛否があるのも分かる。時に政治色もある。 色々問題もあるかもしれないけど、これは今の Web を支える重要な仕組みなのは確かです。

Web の進化の速度

昔ブラウザベンダは、製品の差別化のために我先にと独自の仕様をブラウザに取り入れたました、 marquee タグとかああいうのですね。

でもそれだと他と繋がらなかった。

Web の利用者がどんどん増えて、その間で繋がることの価値が上回ったことで、どんどん消えて行った。

一方で、多くの人にとって価値のある仕様(XHR とか)は標準化のプロセスに乗せられた。

HTML5 関連の盛り上がりは、それが加速した結果だったと思います。


問題は、ステークホルダが増えたときの合議制にはやっぱり限界があったということ。 これが原因で標準化を嫌う人は結構いるんじゃないかな。

そして、仕様ができても、ブラウザの実装はすぐに行き渡る訳ではない現実がある。

ブラウザに実装されないと、俺らにとっては無いのも同じで。

考慮すべきブラウザがせいぜい両手で数えられるくらいなのが本当に不幸中の幸いだと思います。 もっと多かったらどうなっていたか。


本来、仕様を研ぎすますためには、実際にそれを使った開発者からのフィードバックが不可欠なはずなのに、 開発者の手元に API がやってくる頃には、時代のニーズは様変わりしているという事態も、現実に起こり始めていて。

その、わかりやすい例が Application Cache だったりするわけです。 標準化と、ステークホルダと、ブラウザの実装と、開発者のフィードバックと、時代の速度の微妙なずれの賜物。

Extensible Web Manifesto

結局、仕様の策定やブラウザの実装を待ってられないというか、そこに時間がかかりすぎることのフラストレーションって絶対あるんですよね。

仕様を策定してる横で、リアルワールドのユースケースはどんどん変化するし、それらに後追いで対応すると仕様は複雑になり、 いずれは誰の目にも「壊れたもの」にしか映らなくなる。 Application Cache の失敗 はつまりそういうことだったんだと思います。

オフライン対応を誰よりも待ち望んでいた 大手 SNS サービスあたりは「これはマズい」って気づいてい なんとかしようとした んだけど、根本的にはやっぱり難しく。

開発者が見向きしなくなった結果、どのブラウザもその仕様を実装しなくなって、きっとこのまま Web の歴史の闇に消えて行くだろうと思います。その方がいい。

最初の意図からどんどん外れて、継ぎ足し継ぎ足しで膨らんで来た XHR も、結構ギリギリな感じに見えますね。


これって、何がいけなかったのか、もしくは、本当に必要なものって何だったのか?


オフライン対応は絶対必要だけど、そのユースケースは仕様策定時に想定できる範囲を超えてどんどん広がっていってしまう。

「こういうことしたい」と現実の問題を解決して、その時に必要な API のどこまでをブラウザがやるべきか。

そのフィードバックこそが Web の健全な発展を後押しして、標準化のオーバーヘッドを最小限に減らすことができるはずなのに、そうなってるとは言い切れなかった。仕様策定側が「こういうことやりたいんだろ?こう使えよ」ってなってた。

実際は、細かく低レベルな機能を提供して、開発者がそれらを組み合わせながら自分たちのアイデアを素早く形にし、現実の問題を解決できるようにすることが必要なんだよね。

だから、そういうふうに

「開発者には、ユースケースじゃなくて、可能性とその道具を提供しよう」

そして

「開発者が仕様やブラウザの実装を待たずに Web を拡張していけるようにしよう」

と考えた人たちが出てきた。

それが、 Extebsible Web Manifesto の言いたかったことだと思ってます。

Extend the Web Forward

Extensible Web Manifest 自体は 2013 年の中盤くらいに出た話ですね。

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書いたのは、Ember.js その他沢山の開発者である Yehuda Katz や、 Service Workers その他沢山のの仕様を策定している Alex Russell、Fetch, Stream, Cache その他たくさんの仕様を策定している Anne van Kesteren など WHATWG で活動する人たちです。

イメージでは、仕様も書いてるけどコードも書けるし、「W3C になんか任せてられるか!」って思ってそうな人たち。

サイトに行くと賛同する主立った人たちの名前が載ってます。もし賛同するならリンクから自分の名前を登録することもできます(意思表明だけで、別に何が起こる訳じゃないけど)。


で、具体的に何が変わるのか?

その辺の話は、特に中心になって呼びかけてる Yehuda Katz のブログ あたりにも書かれています。

低レベルな API セットと可能性

実は、この考え方は早速 Application Cache の後継として話題沸騰中の Service Worker で実践されています。


Service Worker は本来 Offline 対応に必要な API を考えた結果、それらを細かい個々の仕様に分けて、組み合わせて使うようになっています。

まず、 Shared Worker のように別スレッドで処理を実行できる環境に加え、それを適切にアップデートする仕組みをきちんと整備しました(AppCache の反省が見えますね)。

また、キャッシュの管理もブラウザ任せにしないため、開発者側が完全にコントロール可能にできるよう、 Cache API を作りました。 JS の API です。

Cache したコンテンツをユーザに提供する仕組みですが、ここが面白くて、別のスレッドから「HTTP リクエストに介入する」という方式をとっています。これが Service Worker の本懐。

この Network Interapt の仕様は、オフラインの実現には使えるけど、オフラインの実現にしか使えない訳じゃないですよね。

そこで Cahce を差し込んで返すのは One of Them です。 たとえば、ブラウザが作るのに任せきりにしていたリクエストを奪って、独自にヘッダを足したリクエストを代わりに投げたりすれば、サーバとより柔軟なネゴシエーションができるはずです。

すると、ブラウザが発行するリクエストが再現できて、かつプログラムから必要十分なコントロールを可能にしたリクエスト API が欲しくなる訳です。 それが、前回解説した Fetch API なんですね。だからそもそも 「Fetch するってなにか?」もちゃんと整理されたと。

githubfetch polyfill が XHR で実装されてて勘違いしている人がいるようですが、実際は Fetch API の方ができること多いです(逆に XHR は Fetch API で作れます)。ただのモダンなインタフェースラッパーじゃないです。ただ polyfill するには XHR しか今無いってだけで。


もう一つ、派手さが無いので紹介する場があまり無いけれど、 HTTP 投げるなら URL の扱いは必須な訳です。でも実は長いこと まともな API って無かった んですよね。 これも合わせて定義され、 URL API ができました。 Fetch 同様「URL とはどういうものか?」みたいなレベルから整理されたんです(文字コードの話からも逃げてません)。 派生の URLSearchParams とか使うと、今まで文字列結合でやってたこともいらなくなったり、地味に便利です。なぜ無かったのかと。

さらに、バックエンドとの同期や、サーバからのプッシュの受信、位置情報をベースとしたイベントの取得など、低レベルな API を個々に提供してます。やりたい放題ですね。だから Service Worker は HTTPS オンリーなんですよ。


今はまだ、モダンブラウザのみの閉じた環境であるのをいいことに、ServiceWorker 内でしか使えない API が多いですが、いずれ外に出てくればオフラインの世界以外でも使い道ありそうですよね。

というか、ネットワーク的な意味では、最終的に TCP/UDP Socket 自体を扱えるようになれば、もっとやりたい放題な可能性も待ってます。


すっかりおなじみの WebComponents もそうです。

WebComponents を使えば、標準化を待たずに独自のタグを定義可能になるけれど、それだけのために仕様が多くて複雑で低レベルで扱いが難しいと思ってる人って多いんじゃないでしょうか?

逆です、「それだけのため」じゃないからです。

WebRTC も色々覚えること多いですよね。の割にシグナリングの方法は仕様に無かったりには、ちゃんと意味があるんです。

WHATWG に限らず、 ECMA Script の property descriptordynamic proxySymbol などなどのメタ API 郡も同じように解釈できそう。

低レベルは高レベルをかねる

ユーザは別に全ての API を HTML5Rocks に書かれた通りに組み合わせて使わないといけない訳じゃないんです。 それは一部のユースケースでしかない。

低レベルな API は、教科書の想像の範囲にとらわれず、自由に API を組み合わせて、自分が思う独自の世界をそこに気づき上げられる人たちの為に提供されています。どう使うかは、あなた次第。

ライブラリを作るもよし、フレームワークを作るもよし、誰も思いつかなかったような使い方で世界を変えたって全然構わない。

そうやってできたものが、 Polymer (polyfill 色が強いけど) や Peer.js みたいな高レベルな API を提供するライブラリになったり、それをコンセプトレベルで取り込んだ将来の Angular.jsFlux の先にある何かになったりすれば良くて。


そのままじゃ使いにくい という人はそれらを使えば良い。

開発者に可能性が増えたから、そのエコシステムの形成も進めやすい、これが重要。


そして生まれたユースケースから、欠けている API は提案すれば良いし、逆に頻出パターンにブラウザネイティブ実装の恩恵が欲しければ、より高レベルな API として提案するのもアリかもしれません。

少なくとも、ドラフトの上で生まれ ML で揉まれただけの API よりも、より洗練した実装に早くたどり着けそうな気はしますね。

Extensible Web の夜明け

マニフェストの公開は 2013 年なんで結構前ですが、そこで紹介されたような世界ってやっぱりすぐには実現しません。 仕様の策定とブラウザの実装に引っ張られない世界、それを実現するために必要な API だって、最初は仕様を策定しブラウザが実装する必要があるからです。

ServiceWorker や WebComponents は Polyfill じゃ完全には再現できないですし。


ところが、その実装も徐々に手元に届きはじめています。つまり、理想だった世界は徐々に現実味を帯びて来た感じがする。

リアルワールドな世界にシップするにはまだ早いかもしれませんが、それらの API を使ってアイデアを考え始めるには早すぎると言うことはありません。

自分の設計センスで高レベル API を提供するライブラリを作っても良い。 もっと全然別の、誰も思いつかなかったような使い方をしても良いはず。 そのアイデアが実現して広まるころには、ブラウザの実装ももっと進んで、リアルワールドに繋いでいけるようになっているはず。


自分は、こうして開発者が得た低レベル API という可能性に興味がある。そういうことを来年はやりたい。

草の根準備がちょっとづつ整って、仕様を書く側に偏ってしまった Web の進化の主導権が、コード書く側手に寄り戻ってくるというか、コード書く側が何かを形作って、リアルワールドからのフィードバックが健全に回る。

Web 開発者が、待ちのフェーズから、攻めのフェーズに移れる。

双方が適切な干渉をしあいながら、同じ過ちを繰り返さないようにちょっとづつ Web が進歩してゆく。


2015 年はそういう理想が、もっとリアルになっていくんじゃないかなと期待しています。というかなって欲しい。じゃないとつまらないので。

#extendthewebforward